「ムサシぃ! 今日こそ決闘だぁぁ!」 コジローは息を切らせてムサシに駆け寄ってきた。 「前世の雪辱、はらしてくれる! こっち向け!」 今日はマタハチのご飯を探す番になっていたムサシは、振り向いて 「やあコジロー。元気そうだね。」 「元気も何もあるか!貴様のために日々鍛え続けてきたんじゃい!」 「僕のために? おお!そうしたら一緒においしい物探しに行こう!」 どこまでもムサシの無頓着さに肩をすかされるコジローは、呆れて 息が切れていたのも忘れてしまった。 「ムサシよ・・・お前は覚えていないのか? 巌流島で俺を打ち負かしたことを!」 ムサシは穴を掘りながら、クンクンとにおいをかいだ。その鳴らした鼻が 笑ったように聞こえて腹が立ち、唸り声をあげるコジロー。 ムサシは答えた。 「コジロー。僕らはなんで、またこの世に戻ってきたんだと思う?」 「ムサシ、お前は俺を試しているのか?」 「違うよ」ムサシは掘り出した骨を嬉しそうになめ、きれいにした。 「この世に僕らが生きてるってこと。たぶん答えはないんだ。」 ムサシは、コジローに骨を差し出した。「これだよ。」 空腹に耐えながらムサシを打倒するために鍛えてきたコジローには、 その骨が喉から手が出るほど欲しかった。が、武士は食わねど高楊枝。 「そ、そんなものでつられるか。小賢しくなったもんだなムサシ。」 「はは、コジロー。そうじゃなくって、」 ムサシは、今度は笑って鼻を鳴らした。 「この世で、君が目指すものがもっと、もっとたくさんあるだろう? 選ぶのは君なんだから、また天にかえるまでの短い間、目指すものが 僕なんかでいいのか? ってことだよ。」 ムサシは、骨をくわえて言った。 「僕は、これを目指してるんだ。」 コジローは、ムサシが骨を目指している? と 退屈そうに後ろ足で耳を掻いた。「何が言いたいんだ?」 「僕は君のように奉公先がない。もしかしたら、死ぬまで来ないのかもしれない。」 「ふん。うらやましいか。それはお前が人間たちに売り込まなかったのだから、 自業自得だろう。」 「うん。君の言う通りだよ。食べさせてくれる人がいない分、 ひとりで食べて、生き延びてかなくちゃいけないんだ」 「俺様の知ったことか。俺には俺、お前にはお前の生き方がある。」 ムサシは、骨を置いて、鼻でコジローに差し出した。 「お、お前の大事な食糧だろう? 俺は屋敷に帰れば、もっとうまい飯が ある。土くれのついた骨など、いらんいらん!」 「僕はねコジロー。 僕やマタハチや君が、なぜこの世にまた戻って来て、しかもなぜ犬に生まれ 変わったのか、その意味が知りたいんだ。前世で僕は、君と決闘をするまでに みんなからいじめられ、憎んでいたやつらに打ち負かされ、悔しい思いをしたり、 死にかけたり、それは大変だったんだよ。 でもさ、それでも綺麗な朝日を眺めたり、おいしいものにありつけたときは そういうものを全部忘れられたんだ。なんでだろうね。 今思う。たぶんどんなことがあっても、必要なのは心の安らぎを自分で作る ことなんだろうって。」 コジローは、その場に寝たふりをしていたが、耳だけは動かしていた。 「君にはいい暮らしがある。人気もある。それは君が頑張った賜物だよ。 その幸せを、僕みたいなはぐれ者を打ち負かそうなんて、ちっぽけなことで 無駄にしちゃいけない。 今じゃ記憶だけしか残っていない過去を、お互いにまだいがみ合い 競争しているほど、僕らの命は長いと思う? 短い命、またチャンスが来たんだ。僕はこのチャンスを何か新しいことに 使って、新しい未来に残していきたいと思ってる。」 遠くから、声がした。「ムサシー!」 マタハチだ。 マタハチのご飯になるはずの骨をコジローにあげてしまったムサシは、 きまりが悪そうに言った。「ごめんマタハチ。あの骨は、今の彼に必要だったんだ。」 マタハチは、二人の顔を交互に見て、察したように笑った。 「ははっ、心配ご無用! ちょうど今晩の飯のことで、いい知らせがあってな。 すんごいところ見つけたぜ。行こう!」 さすがに、コジローはそれについていかれなかった。が、 骨を前にしばらく考え、黙ったままそれをゆっくりくわえて、 ゆっくり歩いて屋敷に帰っていった。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 旅は道連れ、世は情け。 たびたびもりもり、遠吠え更新。(`・ω・’) ムサシと一緒に旅しよまい! ↓↓ あなたの周りにも、元気をシェアしてね ↓↓ ヽ( '∀`)ノ
Saturday, August 24, 2013
追究者と追跡者 - A CHOOSER & A CHASER
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment