Saturday, August 24, 2013

追究者と追跡者 - A CHOOSER & A CHASER

「ムサシぃ! 今日こそ決闘だぁぁ!」 コジローは息を切らせてムサシに駆け寄ってきた。 「前世の雪辱、はらしてくれる! こっち向け!」 今日はマタハチのご飯を探す番になっていたムサシは、振り向いて 「やあコジロー。元気そうだね。」 「元気も何もあるか!貴様のために日々鍛え続けてきたんじゃい!」 「僕のために? おお!そうしたら一緒においしい物探しに行こう!」 どこまでもムサシの無頓着さに肩をすかされるコジローは、呆れて 息が切れていたのも忘れてしまった。 「ムサシよ・・・お前は覚えていないのか? 巌流島で俺を打ち負かしたことを!」 ムサシは穴を掘りながら、クンクンとにおいをかいだ。その鳴らした鼻が 笑ったように聞こえて腹が立ち、唸り声をあげるコジロー。 ムサシは答えた。 「コジロー。僕らはなんで、またこの世に戻ってきたんだと思う?」 「ムサシ、お前は俺を試しているのか?」 「違うよ」ムサシは掘り出した骨を嬉しそうになめ、きれいにした。 「この世に僕らが生きてるってこと。たぶん答えはないんだ。」 ムサシは、コジローに骨を差し出した。「これだよ。」 空腹に耐えながらムサシを打倒するために鍛えてきたコジローには、 その骨が喉から手が出るほど欲しかった。が、武士は食わねど高楊枝。 「そ、そんなものでつられるか。小賢しくなったもんだなムサシ。」 「はは、コジロー。そうじゃなくって、」 ムサシは、今度は笑って鼻を鳴らした。 「この世で、君が目指すものがもっと、もっとたくさんあるだろう? 選ぶのは君なんだから、また天にかえるまでの短い間、目指すものが 僕なんかでいいのか? ってことだよ。」 ムサシは、骨をくわえて言った。 「僕は、これを目指してるんだ。」 コジローは、ムサシが骨を目指している? と 退屈そうに後ろ足で耳を掻いた。「何が言いたいんだ?」 「僕は君のように奉公先がない。もしかしたら、死ぬまで来ないのかもしれない。」 「ふん。うらやましいか。それはお前が人間たちに売り込まなかったのだから、 自業自得だろう。」 「うん。君の言う通りだよ。食べさせてくれる人がいない分、 ひとりで食べて、生き延びてかなくちゃいけないんだ」 「俺様の知ったことか。俺には俺、お前にはお前の生き方がある。」 ムサシは、骨を置いて、鼻でコジローに差し出した。 「お、お前の大事な食糧だろう? 俺は屋敷に帰れば、もっとうまい飯が ある。土くれのついた骨など、いらんいらん!」 「僕はねコジロー。  僕やマタハチや君が、なぜこの世にまた戻って来て、しかもなぜ犬に生まれ  変わったのか、その意味が知りたいんだ。前世で僕は、君と決闘をするまでに  みんなからいじめられ、憎んでいたやつらに打ち負かされ、悔しい思いをしたり、  死にかけたり、それは大変だったんだよ。  でもさ、それでも綺麗な朝日を眺めたり、おいしいものにありつけたときは  そういうものを全部忘れられたんだ。なんでだろうね。  今思う。たぶんどんなことがあっても、必要なのは心の安らぎを自分で作る  ことなんだろうって。」 コジローは、その場に寝たふりをしていたが、耳だけは動かしていた。 「君にはいい暮らしがある。人気もある。それは君が頑張った賜物だよ。  その幸せを、僕みたいなはぐれ者を打ち負かそうなんて、ちっぽけなことで  無駄にしちゃいけない。  今じゃ記憶だけしか残っていない過去を、お互いにまだいがみ合い  競争しているほど、僕らの命は長いと思う?  短い命、またチャンスが来たんだ。僕はこのチャンスを何か新しいことに  使って、新しい未来に残していきたいと思ってる。」 遠くから、声がした。「ムサシー!」 マタハチだ。 マタハチのご飯になるはずの骨をコジローにあげてしまったムサシは、 きまりが悪そうに言った。「ごめんマタハチ。あの骨は、今の彼に必要だったんだ。」 マタハチは、二人の顔を交互に見て、察したように笑った。 「ははっ、心配ご無用! ちょうど今晩の飯のことで、いい知らせがあってな。 すんごいところ見つけたぜ。行こう!」 さすがに、コジローはそれについていかれなかった。が、 骨を前にしばらく考え、黙ったままそれをゆっくりくわえて、 ゆっくり歩いて屋敷に帰っていった。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 旅は道連れ、世は情け。 たびたびもりもり、遠吠え更新。(`・ω・’) ムサシと一緒に旅しよまい! ↓↓ あなたの周りにも、元気をシェアしてね ↓↓ ヽ( '∀`)ノ

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